クローグ、印象派の影響を受けたノルウェーの画家
オルセー美術館で開催されていた『クリスチャン・クローグ』展に行ってきました。
クリスチャン・クローグ(1852年‐1925年)はノルウェーのジャーナリスト、小説家、画家である。彼は、19世紀後半から20世紀にかけての、ノルウェー文化の中心的人物であった。そしてヘンリック・イプセンに代表される、スカンジナビアの自然主義の流れの中で、彼が生きる時代の社会問題を作品に転置していった。またクローグの絵には、質素な暮らしをする漁師、都市の貧民や売春婦が描かれている。
クローグは、ドイツで絵の勉強をしたのち、パリとパリ郊外に繰り返し滞在する。そこでは、マネや印象派より絵のフレーミング(構図の切り取り)に影響を受けた。マネの絵には、絵の中に傍観者がいて、絵の手前に背を向けていたり、自分の仕事に集中している人、絵の鑑賞者に視線を向けている人がいる。そして印象派カイユボットは、偶然に抜粋された生活の一部のように見える大胆なフレーミングを使用する。
クローグは、「絵はフレーミングがすべてである。」と言っている。そして彼は絵を描く時は常に人物の前に座り、モデルを近距離で描いていった。特に漁師のシリーズでは、間近で活動する人物とその背景が外に流れていくのがわかる。


クローグと19世紀のクリスチャニア
フランスから寄稿したクローグは、クリスチャニア(現オスロ)の芸術家や学生のなかの中心人物となった。この「クリスチャニアのボヘミア」で、エドヴァルド・ムンク、無政府主義者のハンス・イェーゲル、将来の妻となる画家オダと出会う。また彼は、劇作家イプセンやデンマークの批評家ゲーオア・ブランデスを大変尊敬していた。そしてこの二人は、都市の貧困や売春、女性の権利、宗教に関しての社会問題の提議をしている。
ジャーナリストであり小説家でもある彼は、この「近代化の突破口」の流れに属しスカンジナビアの自然主義と呼ばれる。クローグの活動は、社会を改善する芸術を創造することであった。そしてスカンジナビアの文化人の肖像画を通して、自分が生きる時代を忠実に再現していた。


クローグの描いた世界
クローグは、芸術は社会に役立つ者でなければならないと言っている。そして社会問題を取り上げ、大衆に呼びかけることが必要と訴える。しかし彼の作品で、直接的に社会問題を取り上げたものは少ない。その中でも『アルベルティーネ』は、小説、その後に絵画が制作されたが、翌日禁書となり警察により押収された。
彼の作品は、小説の自然主義の様にとても悲観的な雰囲気を醸し出している。クローグは、貧困がどのように売春、アルコール依存症、病気、死につながるかを物語る。そして彼等の生活のすべては、ダーウィンのいう生存競争のみに留まる。
クローグは1879年、デンマークの貧しい漁村スケーエンの人々の様子も描がいていった。この村はその美しい光と、ここでしかない魅力的な自然で、芸術家たちを引き寄せていた。しかし人々は貧しく、三世代が同じ家で暮らしているのが現実である。村人は画家に家を開放し、画家はその飾らない生活を描いていく。
自然主義の画家は、自分の家族の日常生活も描いていった。家族を描いた全ての絵は、彼の社会構成を形づくる大きなモザイクの一部をなしている。人々に親密に寄り添い、自然体のモデルを描いていく彼の作品は、鑑賞者がスカンジナビアの当時の人々の生活を目の前で見ている錯覚を起こさせる。


参考サイト/オルセー美術館
北欧画家の展覧会
オルセー美術館の情報
Musée d’Orsay
開館時間 火曜から日曜9時30分から18時、木曜日は21時45分まで開館、閉館日 月曜日
住所 Esplanade Valéry Giscard d’Estaing 75007 Paris
料金 大人(18歳以上)日時指定予約16€、大人当日券14€、18歳未満無料、
地下鉄 12番線Solférino駅、RER C線Musée d’Orsay駅
バス 63番、68番、69番、73番、83番、84番、87番、94番
駐車場 Carrousel du Louvre、Bac Montalembert