『ジョルジュ・ド・ラ・トゥール』ジャックマールアンドレ美術館

蚤を取る女、1632年または35年頃 美術展
蚤を取る女、1632年または35年頃
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パリのジャックマールアンドレ美術館で開催されている、『ジョルジュ・ド・ラ・トゥール』展に行ってきました。

ジョルジュ・ド・ラ・トゥール(1593年‐1652年)は、フランス北東部のロレーヌ地方で活躍した画家である。この時期の画家に多く見られるよう、彼もイタリアの画家カラヴァッジョから影響を受けていた。カラヴァッジョの絵の特徴は、光と影の効果を巧みに使い劇的に場面を演出することにある。

またラ・トゥールは、パリではなく地方で活躍した珍しい画家でもある。その為か、彼がどのようにして画家になったのかは、あまり知られていない。オランダ人のカラヴァッジョ派の画家に師事したか、彼が実際ローマでカラヴァの作品を見たかもしれない。有力な説では、ナンシー(ロレーヌ地方の都市)にあった、カラヴァッジョの『受胎告知』を見ていたと言われている。

悔悛するマグラダのマリア、1635年から40年頃
悔悛するマグラダのマリア、1635年から40年頃
新生児、1647年から48年頃
新生児、1647年から48年頃

ラ・トゥール作品の魅力

ラ・トゥールの時代、ロレーヌ地方はフランスから独立したカトリックの公国であった。彼はロレーヌ侯爵の廷臣や有力な美術品収集家、そしてルイ13世の宮廷にも顧客を抱えていた。そのため彼は生前有名な画家であった。しかし亡くなってからはその名は忘れられていた。その後、彼の作品が再発見されたのは20世紀になってからであった。

現在残っているラ・トゥールのオリジナル作品は約40枚ある。それに加え亡くなった作品も複製から知ることができる。このように当時からコピーが作られていたことからも、彼の作品の人気が伺える。

ラ・トゥールが扱う題材は、消して華やかなものではない。『蚤を取る女』や『妻に嘲笑されるヨブ』などは、ロウソクの明かりのみで謙虚な動作を映し出す。作品に描かれた人物は、彼の周りにいる農民や貧しい町民から着想を得たと考えられる。

そして画家が見た日常生活の情景は、宗教的な啓示に取って代わる。蚤を取る女は、瞑想の人物となり、夫婦のいさかいは、聖書のジョブの一節を語る。

ラ・トゥールが描いた世界には余計なものが一切存在しない。しかしその絵は見ている者に、大きな感動を与える。このことから彼の作品の特徴は、精神的な強さを含む自然主義と言える。

妻に嘲笑されるヨブ、1630年頃
妻に嘲笑されるヨブ、1630年頃
豆を食べる人々、1620年頃
豆を食べる人々、1620年頃

なぜラ・トゥールの作品は同じ絵が何枚もあるのか

ラ・トゥールは、宗教画を多く残した。その多くは、一人の聖人を等身大の大きさで描いたものだ。

その中でも『悔悛する聖ヒエロニムス』は、フランスのグルノーブル美術館とスゥエーデンのストックホルム美術館のものがある。この作品の聖人は、年老いた体をさらけ出している。その裸体には光が当てられている。二つのヴァージョンの作品に描かれている品々は、赤い帽子を覗いて同じである。

ストックホルムの作品は、リシュリュー枢機卿の美術コレクションに記載されていた。このことから、この作品が重要な人物のために制作されたことが分かる。そしてこの赤い帽子が、枢機卿の位を表すことからも、このことが証明されている。

しかしこの二枚は、光の当たり方や細部の表現方法からも違った演出効果を狙ったと思われる。これは、オリジナルと複製なのかという疑問もある。ラ・トゥールは、同じ主題を変化を付けながら複数枚制作するアーティストだったのか。または、工房の助けを得ながら既に描いた主題の作品をセルフカバーし、注文に応じていたのかもしれない。

これらの作品は単なる複製ではなく、次々と入る注文に応じるための生産方法でもあったのかもしれない。そして同じ主題に何度も取り掛かることにより、画家はその理解を深めていったともいえる。

悔悛する聖ヒエロニスム、1630年、ストックホルム国立美術館
悔悛する聖ヒエロニスム、1630年、ストックホルム国立美術館
悔悛する聖ヒエロニスム、1630年、グルノーブル美術館
悔悛する聖ヒエロニスム、1630年、グルノーブル美術館

参考サイト/ジャックマールアンドレ美術館

カラヴァッジョに影響を受けた画家の記事

ジャックマールアンドレ美術館の情報

Musée Jacquemart André

『ジョルジュ・ド・ラ・トゥール』展は2026年1月25日まで開催

開館時間 10時から18時、金曜日は22時、土日は20時まで開館(チケット販売は閉館30分前まで)、閉館日なし 

料金 大人18€、65歳以上 17€、学生 15€、7歳から25歳 9.5€、ファミリー料金 49€(大人2人+2歳から17歳2人)

住所 158 boulevard Haussmann 75008 Paris

電話  +33(0)1 45 62 11 59 

地下鉄 9番線、13番線 Miromesnil駅、9番線、1番線 Saint-Philippe du Roule駅

バス 22番、43番、52番、54番、28番、80番、83番、84番、93番

駐車場 Haussemann-Berri

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