『ジャン・バティスト・グルーズ』プチ・パレ

シャツの前を開けたブロンドの少年、グルーズ、1760年頃 プチ・パレ
シャツの前を開けたブロンドの少年、1760年頃
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パリのプチ・パレで開催されている『ジャン・バティスト・グルーズ』展に行ってきました。

ジャン・バティスト・グルーズ(1725年‐1805年)は、18世紀にフランスで大人気だった画家である。しかしフランス革命(1789年)後は、人気もなくなその名は忘れられる。また彼は、革命で財産も失い、貧しい生活を送りながら亡くなっていった。そして最後は、アトリエで二人の娘に看取られながそっと息を引き取った。

フランス宮廷の人気画家からの没落。しかし子供たちは誰にも見向きされなくなった父を見捨てることはなかった。このことからも画家グルーズの家族愛がうかがえる。

今回の企画展は、グルーズ作品のなかでも子供のテーマを中心に展示を構成する。クルーズは哲学者ジャン・ジャック・ルソーと同じ時代を生きた。ルソーといえば教育論『エミール』が有名である。この小説は多くの母親に読まれ、物語通り自分の子を育てる人も出てきたほどだ。この本の影響もあり、この時期に子供の存在がいままでより重視されるようになった。

ルイーズ・ガブリエル・グルーズの肖像画、1766年
ルイーズ・ガブリエル・グルーズの肖像画、1766年
授業を勉強する小学生、1755‐57年頃
授業を勉強する小学生、1755‐57年頃

グルーズの描く家族像

子供のいる家族像は、大人と子供が同じ時間を共有する場面を描く。それは、楽しい思い出もあれば、家庭内で起きる修復できない亀裂も発生する。

下の絵は、家族全員がテーブルに集まっている。絵の題のガトー・デ・ロワは、公現節(1月6日)にケーキを家族で切り分けて食べる行事だ。ケーキの中には、小さな陶器が入っており、それを当てた人が王さままたは王妃になる。家族全員が集まり、一つのお菓子をみんなで分けて食べる。子供も大人と同じ分もらえ、平等に扱われる。子供がいつもより大きくなれる日でもある。

そして『父の呪い‐恩知らずの息子』は、『父の呪い‐罰せられた息子』と対になっている。下の絵は、長男が軍隊に入隊するため家族を捨てる瞬間だ。反対する父は息子を呪い、他の家族は悲しみに浸る。まるで劇の一幕を見ているような光景である。また翌年に完成した『父の呪い‐罰せられた息子』は、その数年後を語る。杖をついた息子は亡くなった父の枕元に近づこうとしている。『父の呪い』の二つの悲劇は、構想から12年かけて完成した。

ガトー・デ・ロワ、1774年
ガトー・デ・ロワ、1774年
父の呪い‐恩知らずの息子、1777年
父の呪い‐恩知らずの息子、1777年

忘れられた晩年

グルーズの絵の中の父親は、18世紀に頻繁に見られる権威を象徴するものではない。その中には、病気の父親、死んだ父親など弱い男親もいる。そして1769年に美術アカデミーに送った作品も、悪しき父の象徴である。それは、ローマ帝国の悪帝カラカラとその父親の物語である。この作品はアカデミーに入会するための審査作品であった。しかしこの絵は13年遅れで審査員の手元に届けられることになる。

その力作は、彼が得意とする家族や子供が主題ではない。グルーズは、歴史画に挑んだのである。アカデミーで権力のある歴史画家として、実力を認めてほしかったのだ。しかし結果は全く逆のものとなった。この作品には「平凡すぎる」という決断が下る。グルーズは、彼がいつも描いている「日常的なテーマを扱う画家」としてアカデミー会員に認められた。

この結果を不服としたグルーズは、アカデミーに作品を出品することをやめる。そして自分のアトリエで作品を発表する。しかし1780年頃になると、人気者の肖像画家も注文が減ってくる。それに加えフランス革命で預けていた財産を失う。彼はこうして貧困の中、周りの人々から忘れられ、この世から去ることになる。

グルーズの絵は、新古典派のダビッドの絵を思わせる。彼の絵の構図、色使い、テーマは、王政時代を代表する作品より半世紀早く先を行っていた。そう思うと、アカデミー入会作品の審査は、正しかったのか疑問である。

父を暗殺しようとしたカラカラが父から非難される、1767‐69年
父を暗殺しようとしたカラカラが父から非難される、1767‐69年

参考記事/プチ・パレ

フランス17世紀画家の記事

プチ・パレの情報

Petit Palais

『ジャン・バティスト・グルーズ』展は2025年1月25日まで開催

開館時間 火曜から日曜10時から18時(チケット販売は17時15分まで、17時45分より庭と展示室の退室案内開始)、1月1日、5月1日、11月11日、12月25日閉館

住所 Av. Winston Churchill, 75008 Paris

電話 +33(0)1 53 43 40 00 (開館日の午前10時から18時まで)

料金 企画展大人14€、18歳から26歳まで12€、17歳以下無料、常設展無料

地下鉄 1番線13番線Champs-Elysées-Clemenceau駅、9番線Franklin D.Roosevelt駅

鉄道 RER C線 Invalides駅

バス 28、42、72、73、80、83、93

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