パリのリュクサンブール美術館で開催されている『ピエール・スーラージュ』展に行ってきました。
この展覧会では、ピエール・スーラージュ(1919年‐2022年)が紙とインクで作った作品を130点集めた。日本でも名が知られるスーラージュは、フランスを代表する現代画家である。キャンバスを黒で埋め尽くす彼の作品は、世界中の有名美術館に収蔵されている。今回は、彼が1946年から2000年代までに作成した、紙に描いた作品に注目する。彼は46年から、クルミのインクを幅の広いブラシで紙の上に塗る作品を作る。当初の画材は、コレット夫人がアトリエで樹皮を煮詰めて作っていた。
そして紙は、安価で手軽に作成できる。また狭いアトリエでは、紙の方が場所を取らなかった。このような実用的な理由から作られた作品は、作家の手元に長い間保管されていた。
紙にインクで描く作品は、油絵とは違い修正ができない。そしてインクの流れを予測し、素早く描かなければならない。しかしスーラージュは、長いキャリアのなか何度も紙の作品を作り続けた。


スーラージュの黒、オートルノワール
1948年には、早くもドイツの展覧会でスーラージュの作品が発表され、カタログの表紙にもなった。その後、アメリカや日本でも個展を開き早くから成功を収めていった。そしてスーラージュは、100歳を超えるまで絵を描き続けた。その長いキャリアの間、彼は紙またはキャンバスにインク、墨、タール、油絵具を塗る作品を作り続ける。
一見、黒一色のキャンバスもよく見るとそこに光が見える。このオウトルノワール(Outrenoir、ノワールは仏語で黒)と言われる絵は立体的にできている。分厚くブラシで塗られた黒には、画材の筋が見える。そしてこの凹凸が光が反射し輝く。この黒い画面で起こるコントラストがキャンバスに奥行きを与える。このオートルノワールも紙の作品から発展していった。
スーラージュは画家と言ってもキャンバスに色を塗る画家であり、なにか形を写し取るわけではない。そして彼は、黒の奥深さや可能性を追求していった画家である。
そんな彼が画家になったきっかけは、生まれ故郷の近くの教会を12歳の時に訪れた時であった。サント・フォワ教会のロマネスク様式の彫刻を見ながら芸術家になる決心をした。彼は1986年にこの教会のステンドグラスを作ることになる。パリの国立美術学校にも受かるが、一年で中退し自分の表現方法を一人で探ることになる。

紙とインクで表現する色の可能性
彼は、抽象画家で色で表現をしたアメリカの画家、マーク・ロスコとも交流があった。スーラージュは紙とインク(黒)で表現の可能性を追求した。二人は形ではなく色から人々の感情に訴える作品を作っていった。
クルミのインクは紙の上で流れるように走りだし、所々かすれながらだんだん薄くなる。これらの作品は習字のように、筆の勢いや力強さを見るものに伝える。また別の作品では、薄めたインクで画面を素早く塗りつぶしたの上に、太いブラシで濃いインクを力強く塗っていく。濃いインクと対比した薄茶色は、レースカーテンを抜けたような弱い光を含んでいる。
このような絵の奥行きは、紙とインクとブラシの最小限の材料と道具でしか表現できない。そして無駄なものがない分、絵の神髄に迫れる。また絵を描く際に自分の動きをコントロールしなければならないので、高い技術が必要になる。一つの事に繰り返し向き合う姿勢は、職人のようにも思える。70年以上続けてきたのも納得がいく。


参考サイト/リュクサンブール美術館
マーク・ロスコの記事
リュクサンブール美術館の情報
Musée du Luxembourg
『ピエール・スーラージュ』展は26年1月11日まで開催されています
開館時間 月曜から日曜10時30分から19時、月曜日は22時まで開館(チケット販売は45分前まで)、5月1日閉館
住所 19 Rue de Vaugirard 75006 Paris
電話 01 40 13 62 00
料金 大人14€(予約は+1,50€)、16歳から25歳まで2人で10€(月から金曜の16時から)、16歳未満無料、Place aux Jeunes!チケット(26歳未満、月曜から金曜無料、インターネット予約のみMusée du Luxembourg – Paris (museeduluxembourg.fr))
地下鉄 4番線Saint Sulpice駅、10番線Mabillon、12番線Rennes、RER B線 Luxembourg
バス 58、 84、89番 Musée du Luxembourg、63、70、86、96番Église Saint Sulpice
駐車場 Marché Saint-Germain (rue Lobineau入口)、Saint Sulpice